箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回は、大阪大学大学院経済学研究科教授の松村真宏(まつむら・なおひろ)さんをゲストにお迎えし、「仕掛(しかけ)学」についてお聞きしました。
「仕掛学」を研究しているのは、世界でも松村さんの研究室だけという、実はオンリーワンの研究分野。ですが、注目度は大変高いといいます。
ここでいう「仕掛け」とは?
「最近、男性用のトイレで、小便器の中に『的』がついているものを見るようになりました」
思わず狙ってしまうのは、男の性(さが)?
この的が、飛び散りを防ぐのに高い効果を発揮します。
オランダの国際空港では、小便器の中にハエのマークを設置することで、トイレの清掃費用を格段に安く抑えることができました。
・利用者…マークを「狙いたい」
・設置者…飛び散りを防止し清掃費用を「抑えたい」
このように、利用者と設置者の目的が異なる(目的の二重性)ものを、松村さんは「仕掛け」と呼んでいます。
●「仕掛け」との出会い
松村さんが初めて「仕掛け」に出会ったのは、天王寺動物園でした。園内に何気なく設置された、金属製の筒。いかにものぞきたくなるような筒の、その先にあったものは…
「ゾウのフンでした」
筒の先にフンの模型を置くことで、ゾウの生態について学ぶことができる「仕掛け」。
人を行動に駆り立てる、とんちの利いたその仕組みに感心した松村さんは、これを研究テーマとして取り組んでいきます。
改めて世の中を見渡せば、「仕掛け」はいろいろなところに見出すことができます。
・塀や壁に描かれた「鳥居」…ごみの不法投棄や立小便を防げる
・ごみ箱の上の「バスケットゴール」…ごみを思わず捨てたくなり、ポイ捨て防止になる
・デジタル広告の画面に「見ている人が映る」…自分がいつ映るかと注目することで広告を見てもらえる
ここでもう一つ重要なのは「仕掛けられた人が嫌な気持ちにならないこと」。悪意を持って仕掛けられたり、人を貶めたりするものを、松村さんは「仕掛け」と見なしていません。
「仕掛けた人も、仕掛けられた人も、みんながハッピーになる。それが『仕掛け』なんです」
松村さんのもとには、各方面から「仕掛け」についての相談が持ち込まれているそうです。ちょっとしたアイデアで、多くの人に注目してもらえるようになれば…そんな切実な思いを抱いている個人や企業の、なんと多いことか。
●ラジオを聴いてもらうための「仕掛け」は?
では、タッキーからも松村さんに相談です。
ラジオをより多くの人に聴いてもらう「仕掛け」は?
「うーん…ラジオを通じて呼びかけるのは意味ないですよね」
確かに、すでにその人は聴いていますから、別の方法が必要です。
「では、こうしたらどうでしょう。通りすがりの人など、誰でもいいからインタビューして、放送で流します。そのことで、本人や家族、友人・知人にも関心を持って聴いてもらうことができ、リスナー増加につながるのではないでしょうか」
なるほど…心強いお言葉、ありがとうございます!
●ゑびす男選びと阪大坂流しそうめん
毎年1月、大阪大学豊中キャンパスでは「ゑびす男選び」が行われます。
石橋阪大下交差点から、キャンパスまでの「阪大坂」。約300メートルの上りを一気に駆け上るというもので、恒例の行事としてすっかり定着。石橋商店街の協力による炊き出しなども行われ、大学と地域の交流の場となっています。
7月には、この阪大坂で流しそうめんも行われるようになりました。キャンパスのある待兼山から竹を切り出し、割って節を抜いて樋を作り、長くつなげて…朝9時から作業を始めて、食べられるのは夕方。それでも、学生を始め地域のかた、子どもたちの参加で賑わったとか。
「今年は、長さが50メートルに達しました」
なんと、超特大(特長?)の流しそうめん!
坂の傾斜を上手く利用した、ユニークな企画となっています。
二つの行事、実はいずれも松村研究室が「仕掛け人」なのです。
「もともと大阪大学には『ランドマーク』がなかったんです。東大なら赤門、京大なら時計台があるのに…そこで、『阪大坂』を大阪大学のランドマークにしようと考えました」
大学と地域の交流のための「仕掛け」。報道などで、ゑびす男選びの知名度も高まり、駅伝の有名選手も参加するなど、その「仕掛け」は功を奏していると言えるでしょう。
●著書について
「仕掛学: 人を動かすアイデアのつくり方」(東洋経済新報社)
一般向けに、なるべくわかりやすい言葉で、「仕掛け」の事例を多く紹介しています。
専門書としては異例の売れ行きで、図書館でも予約が殺到する人気ぶりです。
そしてここで突然、謎の袋が登場!?
「何ですか?『中は見ちゃダメ』と書いてありますが…」
こうなると、見ずにはいられませんよね、と松村さん。
中から出てきたのは・・・。「あっ。これは、新しく出した私の本ですね」
「人を動かす「仕掛け」: あなたはもうシカケにかかっている」(PHP研究所)
小中学生でもわかるよう、漫画でさまざまな「仕掛け」を紹介。松村さん自身が登場し、不思議なキャラクターたちと「仕掛け」を巡るさまざまな冒険を繰り広げます。
「仕掛け」を思いつくのは、何も大人に限りません。子どもでも、むしろ柔軟な発想から、意外な「仕掛け」を生み出す可能性が十分にあります。例えば、夏休みの自由研究で「仕掛け」を調べてみたり、自分で考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
「そういう思いも込めて、この本を作っています」