まちのラジオ第2週 ベトナム史に魅せられて・・・大阪大学大学院文学研究科教授・桃木至朗さん

2018/06/14

machiradio_momoki平良さん / 桃木さん / 猪原さん
箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回は、大阪大学大学院文学研究科教授の桃木至朗(ももき・しろう)さんをお招きして、お話を伺いました。
(聞き手:大阪大学21世紀懐徳堂学生スタッフ 平良理子さん)

●ベトナム史について
桃木さんがベトナムに興味を持ったのは、当時連日のように報道されていたベトナム戦争がきっかけでした。
将来は歴史を研究してみたい、ベトナムの歴史はあまり研究者がいない、それなら・・・とベトナム史を選択することに。
「ベトナムって、実は日本によく似ているんです」
南北に細長い国土、人口、サイズ的には日本の8~9割といったところ。
人の気質や宗教的寛容、伝統的な「ムラ社会」も、日本のそれに近いものがあるといいます。
2年間のハノイ留学で、古文書の閲覧などは制約があって思うようにいかなかったものの、日常的な風物や出来事を詳細に記録し、それが後の研究に大きく役に立ったそうです。
桃木さんが悩まされたのは、ベトナムの暑さ。
もともと暑いのが苦手なのに、わざわざ暑い国を研究対象にしてしまった・・・。食事がのどを通らなくなり、困った桃木さんがふと辺りを見回すと、周囲の人たちはみんな朝から冷たいビールを飲んでいます。「郷に入っては郷に従え」の言葉通り、桃木さんも朝からビール。そしてピリ辛香辛料で食が進むことに気が付き、暑さを乗り切れるようになりました。
桃木さん「おかげで酒に強くなりました」

●「龍馬問題」で意図せぬ注目が・・・

桃木さんが力を注ぐもう一つの分野、それは「歴史教育」。
高校と大学の連携が十分でないことや、受験のための詰め込み丸暗記、これが本当に有意義な教育と呼べるのだろうか?
そんな危惧から「高大連携歴史教育研究会」が立ち上げられ、桃木さんはその運営委員長を務めています。
研究会の尽力によってまとめられたのが「歴史系用語精選リスト」。
入試問題に採用する項目を、本当に必要なものに絞り、丸暗記よりも歴史の流れを掴むことに重点が置かれています。
ところが、このリストが思わぬ反響を呼んでしまうことに。
「歴史の教科書から『龍馬』が消える!?」
こんな見出しでマスコミに取り上げられたことから、一挙に注目が集まります。
非難や反論も寄せられ、桃木さんには報道各社から問い合わせが殺到しました。
「でも、何も授業で龍馬を教えるなと言ってるのではないんです。あくまで、入試の暗記項目に入れなくてもよいのでは、ということなんです」
学生の間では、暗記項目が多い歴史は、勉強のコストパフォーマンスが悪いとして敬遠される傾向にあるといいます。歴史を全く学ばないまま社会に出る若者が増えていったら、どうなるのだろう・・・。
そんな「歴史離れ」を防ぐ提言としてのリストであり、「龍馬が入ってない」と端的な騒がれ方をしたのは残念な出来事でした。
「これからの入試は、暗記の量を問うものではなく、考える力を見る。そういったものになっていくべきです」
予備知識が無くても、よく考えることで解けるような問題だったり、「歴史」の枠に捉われない、他分野とのクロスオーバーもありえる、と桃木さん。
龍馬ファンは腹立たしいかもしれませんが、歴史を大きな流れとして掴むことが、ひいては新しい視点で龍馬を見ることにもつながるのではないでしょうか。

番組にはもう一人、学生の猪原達生さん(博士後期課程)にもご参加いただき、学生から見た桃木さんについてもお聞きしました。
ベトナムで早起きの習慣が身に付いた桃木さんの授業は、朝イチで行われることも多く、「起きるのが大変でした」と猪原さん。
「もともと夜型だったので、自分でもまさか1限目の授業を担当するなんて、思ってもみませんでした」
そんな桃木さんの言葉に、スタジオは和やかな笑いに包まれました。