箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回は大阪大学キャンパスライフ健康支援センター・講師の中野聡子(なかの・さとこ)さんをお招きして、お話を伺いました。
(聞き手:大阪大学21世紀懐徳堂学生スタッフ 浅川慎介さん)
中野さんはろう者、つまり耳が聞こえません。
そのため、収録では手話通訳者を介してお話しいただきました。
5歳ごろから聴力が低下し、補聴器を使って生活してきたという中野さんは、進学先に筑波大学を選びます。
理由は、日本で唯一「心身障害学」が専攻できたから。
しかし、いざ進学してみると、補聴器の性能に限界があり、大学の講義についていくことは困難でした。他の人に内容を書きとってもらったりもしましたが、手書きでは情報量が2割まで落ち込んでしまいます。
そこで気付いたのが、リアルタイムで情報を伝えられる手話の優位性でした。半年で手話を身に付け、その後は手話通訳を利用して、講義を受けられるようになりました。
筑波大学には支援の制度があったため、それが可能だったといいます。ただし、手話通訳者も学生で、それを自分で見つける必要があり、その学生が受ける授業を一緒に取らざるを得ないこともあったといいます。
当時、手話は「日常会話程度」で、「専門的な内容には不向き」とされていました。
中野さんは大学での経験から、手話でも専門的な内容に充分対応できることを実感していました。
そこで中野さんは手話そのものを研究テーマとして選び、その可能性を探ります。
取得した博士号は、ろう者自身による手話研究として、日本で初めてのものとなりました。
その後も、中野さんは自身がろう者であるという特色を生かして、研究を進めます。同じものを見て、同じことを経験しても、脳内の受け止め方・処理方法が異なるため、聴こえる人には思いつかないアイデアが生まれるといいます。
卒業後、広島大学に赴任した中野さんは、周囲に学術手話通訳をこなせる人材がおらず、自分自身で手話通訳者の養成を行う必要性を痛感します。
厚生労働省の手話通訳技能認定試験は合格率2~20パーセントと狭き門で、「司法試験より難関」と言われたりもします。そうした苦労を経て手話通訳者になっても、それだけで生計を立てるのは困難な現状があります。
今後、中野さんのように障害を持った人が、大学で学んだり研究することが増えていくことでしょう。そのために、学術手話通訳の充実は一つの大きな課題であると言えます。
●大阪大学キャンパスライフ健康支援センター
(アクセシビリティ支援室長 望月直人准教授)
大阪大学では、学生や職員の健康支援を行うために「キャンパスライフ健康支援センター」を設け、健康診断や学生相談などのサポートを行っています。
障害者を支援する学生や教職員の育成にも力を入れていますが「まだまだ充分ではない」。
そこで「アクセシビリティリーダー育成プログラム」を導入し、資格として取得できるようにしているそうです。
これからの世の中で重要になるのは、ダイバーシティ(多様性)。障害をマイナスとしてではなく、一つの個性として捉え、さまざまな個性の人が活躍できるようにする・・・そのことが大学の、ひいては社会全体の競争力を高めることにつながっていきます。
中野さんによると「大阪大学での業務は非常にやりやすい」。
日常業務のすべてに手話通訳を付けられる予算が確保されており、日本ではトップレベルの環境にあるといいます。とはいえ、まだ苦労する部分もあり、さらに他大学ではそこまでの支援が整っていないところも多く、今後の支援の拡充が待たれます。
「ぜひみなさんも、簡単な手話を覚えてください」と中野さん。
レストランで会計するとき、店員さんが「ありがとう」と手話で伝えてくれたのがとても嬉しかった・・・。
(1)利き手と逆の手を、甲を上にして胸の前に構える
(2)手刀にした利き手で、構えた手の甲を「トン」と叩く
とても簡単!覚えると使ってみたくなりますね。
では、さっそく中野さんに。
本日はお話しいただき、ありがとうございました。「トン!」