
箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回は大阪大学大学院人間科学研究科 元特任研究員の岡真裕美(おか・まゆみ)さんをお招きして、お話を伺いました。
(聞き手:大阪大学21世紀懐徳堂 肥後楽さん)
特任研究員の期間を満了し「今は肩書きが無いんですけど」という岡さん。
「子どもの事故予防」をテーマに、
・どういった事故で子どもたちが救急搬送されているか
・小学校での安全教育を通して、地域の事故を防ぐ
このような調査・実践を行ってきました。
研究者になるまでに、岡さんは波乱に満ちた人生を歩んできました。
学生時代、大学では文学部で国文学を専攻。電機メーカーに就職し、結婚・出産を経て、専業主婦に。その後、中学・高校の国語教師として再就職しました。
仕事に、子育てに、忙しい日々を送っていた岡さんを、突然の不幸が襲います。
「ジョギングに出かけた夫が、いつまでも帰って来なくて・・・」
熱中症で倒れたのだろうか?あちこちの救急に問い合わせて、ようやく消息が判明します。
病院へ駆けつけた岡さんを待っていたのは、物言わぬ夫の亡骸でした。
死因は、水難事故。
「川で遊んでいた子どもたちが深みにはまって溺れ、たまたまジョギングで通りかかった夫が助けようと飛び込んだそうです」
それはあまりにも急すぎる、人生の暗転でした。
幼い子ども二人を抱えて、この先どうやって生きて行けばいいのか。生きていく意味があるのか。
生きていくために、何か目標が欲しい。
岡さんは、夫を奪った「事故」に注目します。
こういった事故を繰り返さないために、事故の教訓から学ぶことはたくさんある。
でも、今の自分がいくら訴えたところで、感情的な遺族の発言としか受け止められず、すぐに忘れられるのではないか。
本当に伝えるためには、自分が本当の研究者になるべきでは。
そこで岡さんは大学院での研究をめざし、大阪大学大学院に「安全行動学研究分野」があるのを知って、その門を叩いて研究者としての一歩を踏み出しました。
心理学の一分野ということですが、もともと文学部卒で卒論は三島由紀夫だったという岡さんにとっては、全てがゼロからの出発。苦労しながら、なおかつ仕事と子育ても両立させながら、大学院の過程を修了します。
事故防止という大きなくくりの中で、岡さんがテーマに選んだのは「子どもの事故予防」でした。
年齢別の死亡原因では、子どもの場合は事故が原因として一番多くなります。
ベランダから転落したり、室内でも風呂やトイレで幼児が溺れることも。
また、それが世代を超えて継承されないという問題もわかってきました。
実際に手がけたのは、豊中市南部でのフィールドワーク。少子高齢化が進んだ地域で、子育ての集まりに行きづらいといった親の悩みが明らかになってきました。また、それはこの地域に限らず、全国的に同じような課題があるといいます。
そして現在、岡さんが取り組んでいるのは、子どもの事故予防に関する本の出版です。
「実は母子手帳にも、事故予防に関することがちゃんと載っているんです」
それでも事故は起こり続ける。ちゃんと読まれていないのではないだろうか。
それなら、ちゃんと読んでもらえるものを作りたい。
特に、お父さん。母子手帳にきちんと目を通している人は少ないのでは。
そんなお父さんたちにも読んでほしい。
それには、パッと目を引いて、読み物として面白いものが求められます。
書籍化の費用は、クラウドファンディングで賄う予定だそうです。
最後に、岡さんからは
「みんなが安全に暮らせるために、何ができるのかを考え続けていきたい」
という今後への決意の言葉をいただきました。
かつて失われた尊い命。それがきっかけで、一人の女性が研究の道を歩み始めました。
その研究が、結果的に多くの子どもを事故から救うことにつながっていく・・・。
ひょっとしたら、そうやって救われるのは私たちの子どもや孫、そのまた次の世代かもしれません。