まちのラジオ第2週 東南アジアで哲学プラクティス・・・大阪大学文学部文学研究科教授・望月太郎さん

2019/12/12

handai_191212箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回は大阪大学文学部文学研究科教授・望月太郎さん(もちづき・たろう)さんをお招きして、お話を伺いました。
(聞き手:大阪大学21世紀懐徳堂学生スタッフ 安藤歴さん)

望月さんの専門は、フランスの哲学者や現象学の研究です。
大阪大学の海外拠点の一つ、タイのバンコクにある「アセアンセンター」センター長を2014~17年まで勤め、チュラロンコン大学客員教授を経て、現在に至っています。

これまで、カンボジアやタイで哲学教育、哲学プラクティスを実践してきた望月さん。
もともとデカルトの研究を主に行っていた望月さんの大きな転機は、2006年に「哲学プラクティス」と出会ったことでした。
それは「哲学の研究」ではなく、市民の中で哲学する活動です。
フランスでのワークショップ受講をきっかけに、のめりこんでいくことになりました。
「哲学カフェも流行していますし、歩きながら哲学する哲学ウォークというのもあります」
カンボジアでは、アンコールワットで哲学ウォークするという試みも。
参加者はまず哲学者の引用句(「我思うゆえに我あり」など)を渡され、その上で遺跡の中を歩きます。
引用句の解釈と立ち止まった地点の風景がマッチすると感じた場所で「ここだ!」と手を上げ、その理由をみんなに説明。
帰って来てから、参加者みんなでそのことを議論するという内容で、いわば「哲学の遊び」ですが、けっこう面白い!と望月さん。
どこでもできるそうで、大阪大学の豊中キャンパスで学生と一緒にやったこともあるといいます。
そんな簡単に、風景と解釈ってマッチするものでしょうか?
「意外にすぐ見つかるものですよ」

望月さんはこれまで、「高等教育」についての研究にも携わってきました。
1991年に大学で働き始めてから、ずっと大学改革の波にもまれてきたという望月さん。賛成にしろ反対にしろ、高等教育を知らなければもの申すことはできないと考え、高等教育論の研究を始め、大学教育実践センターやユネスコの研究所でも研究してきました。
主なテーマは、クリティカルシンキング(批判的思考)。
米英など英語圏で発展したものですが、そのアジアでの適応について研究するうちに、タイの大学に呼ばれて講義したところ、好評を博して毎年授業をするようになりました。
「クリティカルシンキングは、机上の学問だけでは意味がない。外に出て実践する必要があります」
そこから哲学カフェ、哲学ウォークへと活動が進んで行きました。

実践地の一つ・カンボジアでは、哲学へのニーズがあったといいます。
過酷な内戦を経験した国で、そこから立ち直り自立するための哲学が求められているのです。
望月さんは、現地での活動を継続するために、カンボジアに現地法人を立ち上げます。
学術系クラウドファンディングを活用して運営資金を調達し、環境倫理や性的マイノリティの問題について、哲学プラクティスの活動を続けています。
その際、重要なのは「現地の文化や習慣に合わせること」。
「例えば森林保全で『なぜ木を切ってはいけないのか』について、欧米の環境理論をカンボジアでそのまま説いても伝わりません」
カンボジアは仏教国なので、僧侶が「ブッダは木の下で悟りを開いた。だから木を切ってはいけない」という方が伝わる・・・。
ゴールは同じでも、そこへ到達する最適な道は相手によって変わる。対話を通してその道を探ることが重要になってきます。

「こういった哲学プラクティス、または哲学対話というものは、必ず他者と共に行います。そうすると、自分が思ってもみなかったことを言われたりします」
驚きとの出会い。
それが新たな思索と可能性への道を拓く・・・。
いろいろなことに応用できそうな、夢の広がる哲学プラクティスのお話でした。