『しあわせの道しるべ』(30分番組)
第2日曜 15:30〜
(再放送:同日夜22:30〜、翌月曜15:30〜)
誰にでもある人生のターニングポイント。
そのとき、何を感じ、どう選択していったのか。
フリーライター・コーディネーター 中村のりこが、
公私で出会う素敵な方々を毎月ゲストにお迎えして、
その方の人生の転機についてお話を伺っていく対談番組です。
大きな波を起こすものではないけれど、
ラジオを聞く人の心に、小さな道標ができる。
そんな番組をめざしています。
今回のゲストは・・・
コンサートピアニスト
田尻洋一さん
<田尻洋一さん プロフィール>
国内外で活躍するピアニスト。日本在住。国際ピアノコンクール審査員(1999年スペイン・ハエン、2016年ルーマニア・ブカレスト)歴任。
スタインウェイ・ハンブルク本社より「スタインウェイアーティスト」の称号を授与されている。(2000年)
ショパン全曲、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲、シューマンのピアノ作品全曲、モーツァルトのピアノソナタ全曲、ブラームスのピアノ作品全曲を発表。全曲・連続リサイタル活動で国際的にも注目されるコンサート・ピアニスト。
作曲家の人生観や楽曲のエピソードなどのお話を交えてお届けするトーク&ピアノは人気シリーズとして88回を迎える。
●2020年初のCDリリース
田尻洋一『The Live! ベートーヴェン 交響曲第7番』
●田尻洋一ピアノリサイタル(YouTube公開中)
コンサートピアニストと聞いて、さぞや厳格なイメージを想像していましたが、スタジオに現れた田尻さんは、めちゃくちゃ自然体で、話しやすい関西人♪ こちらまで思わず笑ってしまう語り口に引き込まれました。
コンサートでも「トーク&ピアノ」が人気で、その曲の背景や作ったときの作曲家の心情などをとても分かりやすく解説するトークは、観衆を惹きつけてやみません。
生演奏であるLIVEにこだわってきた田尻さんが、今回初めてCDをリリースされ、そのお話を伺う中で、生演奏にこだわってきた想いや、人生を変えた転機が見えてきました。
ピアノを始めた頃の目標は巨匠超え
8歳からピアノを習い始めた田尻さん。11歳からは作曲も始めます。なにせ、その頃の目標は、音楽の教科書に載るような巨匠を超えること。
「同じ人間なんだから、”あいつら”にできて自分に出来ないはずがない!と思っていました」と言うから驚きです。発想のスケールが違いますね〜!
ピアノを始めた理由が、ベートーベンの「悲愴」を弾きたかったからなんだとか。その才能を開花させた理由は、一般的なテキストに準じた教え方ではなく、自由にその目標に向かって学ばせてくれた恩師の存在も大きかったと言います。
弾きたい!というモチベーションを上手に技術向上に結びつけてくれた恩師のおかげもあり、ピアノを始めてわずか3年後には、ピアノコンテスト第3位に入賞。その後、全日本学生音楽コンクール西日本大会で第2位に入賞し、この頃から各地での演奏活動を開始します。
恩師の導きも大きいながらも、その才能は天性のものだったのではないでしょうか。
桐朋学園大学卒業後は、日本では松浦豊明氏、渡欧し、イディル・ビレット、デイム・モーラ・リンバニー、ジャン・フォンダ・フルニエ各氏の下で研鑽を積みます。
人生を変えたスイスでのできごと
早くして才能を開花させた田尻さんでしたが、20代の後半まで、どのコンテストを受けても良い結果が残せず、悩んだ時期がありました。
そんなとき、あるコンクール終了後、そのコンクールの審査員だった人から一本の電話が入りました。入賞するには至らなかった田尻さんでしたが、その才能を見抜いたその方は、スイスの自宅までレッスンを受けに来るように連絡をくれたのでした。これがピアニスト人生の大きな転機となりました。
ふたつ返事で飛んでいった田尻さん。そのご自宅に着いて驚きます。世界の名匠たちと一緒に写る写真があちこちに飾られているではありませんか。
その人こそ、世界の最高峰チェリスト、ピエール・フルニエ氏の息子であり、演奏パートナーでもあるピアニストのジャン・フォンダ・フルニエ氏だったのです。
そして、まずは曲を弾いてみるように言われた田尻氏は、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲」を弾き始めました。ところが、弾き始めて30分ほど経った頃、ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえ始め、最後には嗚咽する声が・・・。
演奏を終え、振り返ると、そこには号泣するフルニエ氏がいました。巨匠の音楽を浴びて育ち、ピアニストとして巨匠と共演する彼が、自分の演奏に感動して泣いているのです。
「あのときから自分の音楽に自信をもてるようになりました」と振り返ります。
命の終わりまで通い続けてくれたファン
もうひとつ、人生の転機となったできごとがありました。
芦屋で6回シリーズの演奏会を行っていたときのこと。毎回聞きに来てくださるひとりの男性がいました。その男性は、あるとき車イスになり、次の時にはベッド上となってまでも、田尻さんの演奏を聴きにきてくれたのです。残念ながら、最後の回にその姿を見せることはありませんでした。そう。末期がんの治療中も通い続けてくれた方だったのです。
「命をかけて聴いてくれている人がコンサートにいらっしゃる。こちらも命がけで演奏しなければいけないのだと、あらためて肝に銘じました」
そんな想いが、演奏にこだわるピアニストとしての礎になっているのかも知れませんね。
全曲演奏・連続リサイタルで世界からも注目
1996年、ショパン全曲を一夜で発表したことを皮切りに、全曲・連続リサイタルを開始。同年、ベートーヴェンの32のピアノソナタ全曲を、毎週連続の六夜のリサイタルで演奏。1997年、シューマンのピアノ作品全曲、モーツァルトのピアノソナタ全曲、ブラームスのピアノ作品全曲もリサイタルで発表しました。
このような多数の作曲家をテーマにした全曲・連続リサイタル活動は、音楽専門誌、新聞各紙に取り上げられ、現在では、国際的にも注目されるコンサート・ピアニストとなったのです。
これまでCDは出さずに来た田尻さんでしたが、コロナ禍で全演奏会が中止となり、そのタイミングにレコード会社からの声かけもあり、今回初のCDをリリースすることとなりました。
コロナ禍での人々を励ますベートーベンの交響曲をオリジナル編曲によるピアノ演奏で収録。1台のピアノとは思えない力強さ、そして田尻さんならではの繊細さが伝わるものとなっています。
生の演奏にこだわる理由
これまでコンサートにこだわってきた理由は、茶の湯の席と同じだと話す田尻さん。一期一会の中で、演奏者と観客の呼吸やエネルギーの交流とも言うべき場はまさに一度きりです。生の音が鼓膜を通して心の奥底に響いていく感覚は、録音ではとうてい叶わないことです。その音づくり、生の音に触れられるコンサートに、今後もこだわり続けたいとおっしゃいます。
ベートーヴェンと同じ誕生日の田尻さん。まさに生まれ変わりなのではないかと思うほどの多才さで、ピアノ1台で様々な音色を奏で、音に載せて心を届ける演奏家です。
すーっと心に入ってくるような自然体のお人柄のように、繊細かつ力強いピアノ演奏は、これからも新たに世界の人々を魅了することでしょう。一度その世界に浸りに伺いたいですね。
<今後のイベント>
詳しくは【こちら】をご覧ください。
【田尻洋一さんからの“道しるべ”メッセージ】
ひと言で恐縮ですが「がんばる」ということです。「何があってもがんばる」それが大事だと思います。心が負けないように・・・。そこに尽きると思います。
私もCDを出させていただきましたが、これまで通り、LIVEで人と出逢い、そこで暗黙の会話ができるような、そういう場を大切にしながら、今後もがんばっていきたいと思います。
田尻さん、ありがとうございました♪
【♪放送された音源はこちらをクリック♪】
次回の『幸運(しあわせ)の道しるべ』は…
2月14日(日)15:30〜(再放送:同日夜22:30〜、翌月曜15:30〜)
次回もお楽しみに!
(文責:中村のりこ)