今回は大阪大学社会技術共創研究センター特任研究員(常勤)・武田浩平(たけだ・こうへい)さんをお招きして、お話を伺いました。
(聞き手:タッキー816スタッフ 野間耕平、大阪大学2回生「わっしー」こと鷲田遼平さん)
「大阪大学に、野鳥の研究を続けてきた人がいますよ」
こんな紹介を受け、出演をお願いすることになりました。
武田さんは埼玉県の大宮出身ですが、お父さんは箕面、お母さんは豊中出身といいますから、北摂にルーツがあるかたです。
子どもの頃に学習誌の付録の双眼鏡を手にし、鳥を見ることに夢中になった武田少年。観察会にも出かけ、大学では動物行動学を専攻します。
大学院に進み、研究テーマに選んだのはタンチョウでした。
鶴の一種であるタンチョウは、全身が白く、羽根先の一部が黒。頭頂部が鮮やかな赤色をしています。
花札に描かれていたり、古くから知られていた鳥ですが、現在の日本では北海道東部にしか生息していません。
「渡り鳥と思われていますが、日本のタンチョウは渡りをしないんです」
かつては数十羽まで減り、絶滅寸前に追い込まれたこともありました。地元の保護活動によって、生息数は現在千数百羽まで回復しています。
武田さんが注目したのは、タンチョウの求愛のダンス。
オスとメスが向かい合って、いろいろな動作を呼吸を合わせて行うもので、大きく鳴き交わしながら数分間に渡って続けられます。
タンチョウのつがいは毎年同じ相手とペアになるといいます。これまでは、ダンスの動きがシンクロしているペアほど、繁殖が上手くいくと考えられてきました。
「しかし、観察を続けた結果『繁殖が上手くいってないペアの方が、ダンスの呼吸が合っている』ことがわかったんです」
まったく意外な事実。
でも、人間のペアでも、付き合い始めた頃はまめにメールしたりプレゼントしたりしますが、関係が長引くとだんだんおざなりになっていく・・・というのはよくある話です。
タンチョウにおいても、繁殖が上手くいってないペアほど、お互いに呼吸を合わせて上手くいくように努力しているのではないか、と武田さん。
古くからの通説を覆す事実で、新聞や科学雑誌にも取り上げられるなど反響を呼びました。
タンチョウのダンスは、2月から3月にかけての時期に盛んに見られます。厳冬期の北海道で、厳しい寒さの中での観察は、やはり大変だそうです。
「マイナス4度や5度だと『お、今日は暖かいな』っていう感じですね」
マイナス20度まで冷え込むこともありますが、日差しがあれば寒くはない。きついのは、風。強い風のときは本当に辛い・・・。
一部のタンチョウには、個体識別用の足輪が取り付けられています。外見からオス・メスを判別するのは難しく、観察はこの足輪が頼り。ダンスの観察も、足輪のある個体のみが対象となるため、一日中観察してもチャンスは2~3回、場合によってはまったく見られない日もあるそうです。
寒さに耐えながら、ひたすら根気強くタンチョウを眺めつづける日々。地道な積み重ねがあったからこその発見といえるでしょう。
北海道での研究に区切りを付け、武田さんが新天地・大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)に特任研究員として赴任してきたのは2020年のことです。
ELSIとは、倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字をとったもので、エルシーと読まれています。新規科学技術を研究開発し、社会実装する際に生じうる、技術的課題以外のあらゆる課題を含みます。
- 同センターホームページより -
「科学技術と社会の橋渡し」を新たなテーマに、武田さんの大阪での研究生活が始まっています。センター自体ができたばかりで、模索している部分も多いとのことですが、そこから生まれる新たな成果に注目したいものです。
出身の埼玉と比べると、大阪は見られる鳥の種類が少し違うという武田さん。9月の終わりには、箕面の山で「鷹渡り」が見られますよ、という話に「ぜひ一度見てみたいですね」。
鳥好きは健在のご様子。ぜひ箕面でも、バードウォッチングの指導をお願いしたいです!