ガンバッテイルみなさんを応援する土曜日の「エール・マガジン」(14:15on air)
2021年3月13日(土曜日)は、スポーツフォトグラファー小中村政一(こなかむら・まさかず)さん登場!
野球のメジャーリーグ(MLB)、サッカーのワールドカップ(FIFA)、ゴルフの全米オープンの公認カメラマンとして世界を飛び回って撮影する小中村さん渾身の1枚を紹介していただく「小中村フォーカス」10回目です。
●クラブワールドカップ撮影のため、カタールへ
世界のプロサッカーチーム、そのナンバー1を決める「クラブワールドカップ」。
撮影のため、小中村さんは開催地のカタールへ向かうことにしました。
しかし、新型コロナ対策のため、入国できるのは「国民か永住権を持つ人」のみ。
そのためFIFAから特別入国許可の通達をしてもらい、実際の申請書は自分で書いて提出。
幸いビザはすぐに発給され、すぐさまカタールへ飛んだのが1月27日。
入国後すぐに1週間隔離で、明けた2月4日がクラブワールドカップの開幕戦当日でした。
本来は2月1日に行われる予定でしたが、出場予定チームがコロナで辞退し、試合が日延べに。
一つでもボタンを掛け違えたら間に合わなかった、綱渡りのようなスケジュールでした。
1週間の隔離生活は「地獄のようだった」と小中村さん。
空港からホテルまで直行させられ、そのまま部屋から一歩も出られない7日間で「5キロ痩せました」。
救いは最近話題の音声SNS「クラブハウス」で、鬱憤を晴らすように、1日20時間しゃべっていたといいますから、相当なストレスだったことが伺えます。
そうして迎えた試合の日。
FIFAが世界から招集したカメラマンは40人で、いわばスポーツ撮影界の世界トップ40、ピッチの外でも超一流たちが鎬を削るという状態でした。
小中村さんにとっては1年1か月ぶりの国際試合で、当初は「自分のコンディション、決勝までに80パーセントまで戻せればいいかな」と楽観していました。
ところが、「準決勝以降は20人しか撮影できない」というFIFAのお達し。
世界トップ40のうち、半分はふるい落とされるというのです。
これは、初戦で結果を出さないと生き残れない。最初からフルスロットルでいかないと!
そんな思いで臨みましたが・・・。
「初戦はまったくいい仕事ができなかったです」
写真の出来は全盛期の3、4割程度。
かろうじて準決勝には残れましたが、撮影用に用意された席は20人中で17、8番目くらいの席でした。
この扱いに、FIFAに叱咤激励されてると感じた小中村さんは、俄然奮起。
ここで結果を残して決勝に行くしかない!
■この一枚
その準決勝でとらえた一枚の写真。
それは南米王者のパルメイラス所属、フォワードのホニ選手のジャンピングボレーの瞬間です。
高く跳び上がりながら体をほとんど水平に倒して、頭より高い位置のボールを右足でインパクト。
往年の猪木の「延髄斬り」をほうふつとさせる、漫画か?というようなシュートです。
ハイクロスへの反応速度。超人的な跳躍力。空中のボールをジャストミートする勘と技術。
どれをとっても、これぞ世界。これぞワールドクラス。
クラブワールドカップ、それは常識を超えた、化物たちの宴なのだということを、この一枚が雄弁に物語っています。
小中村さんは、撮影の際に「連写を使わない」のが身上です。
カメラの高性能化で、1秒間に何十枚も撮れるこの時代に、敢えて最高の瞬間に一度だけシャッターを切る。
本当に魂のこもった写真は、そうすることでしか撮れない・・・。
それには極限の集中力が求められ、初戦や2戦目はコンマ以下のわずかなズレを感じていましたが、準決勝でようやく勘が戻ってきました。
小中村さんにとって、新型コロナの苦しさを打ち破ってくれたこの一枚。
FIFAにも認められ、決勝の選抜カメラマン20人にも選ばれました。
「決勝は楽しむことができました。終了の笛を聴きながら、やりきった感でいっぱいでした」
カメラマン人生で一番大変だったという、今回のクラブワールドカップ撮影。
それを乗り越え、小中村さんはまた次のステージへ。
この度、J3昇格をめざすサッカークラブ「F.C.大阪」のオフィシャルカメラマンにも就任しました。
「この1年は集中して、一瞬を切り取っていきたい」
次はどんな「この一枚」が見られるのか。
小中村劇場の一観客として、楽しみにしています!