箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回のゲストは・・・
松永和浩(まつなが・かずひろ)さん(大阪大学適塾記念センター准教授)
大阪大学が復活に関わった銘酒「緒方洪庵」」についてお話しいただきました。
(聞き手:タッキー816スタッフ 野間耕平)
実は今回が3回目の出演となる松永さん。
2012年11月「ものづくり上方酒ばなし」、2020年2月「佐治敬三展・書籍『緒方洪庵と適塾』」について、それぞれご紹介いただいていました。
今回の話題は?
「愛媛県西予市にある『野村町』、そこで造られていたお酒を、大阪大学などが協力して復活させたという話題です」
愛媛県南部の山あいに位置する野村町。
周囲を山に囲まれたのどかな盆地で、特産品から「ミルクとシルクのまち」とも呼ばれます。
年に一度行われる「乙亥相撲(おといずもう)」は、大相撲の力士も参加し、全国で唯一、プロアマ対決が見られます。
住民は酒豪ぞろいで、渡されたグラスに注がれた酒を飲み干して返す「サシアイ」という習慣があるといいます。飲めない人には恐ろしい気もしますが、初対面の人でも「とにかく飲みましょー!」とすぐに仲良くなってしまう、そんな人懐っこさのある町が野村町なのです。
酒好きな土地ですから、当然造り酒屋も。
「緒方酒造、という酒屋がありまして」
大阪で適塾を開いたあの緒方洪庵と遠縁に当たることから、そのものズバリの
「緒方洪庵」という銘酒も作られていました。
あの日までは。
2018年に、野村町を襲った大水害。
線状降水帯の影響によりダムの緊急放流が行われ、肱川が氾濫。
野村町の中心部一帯が水没し、5人が亡くなる惨事となりました。
乙亥相撲の会場の体育館は2階席まで水が達し、川沿いにあった緒方酒造も酒蔵が浸水して、操業が不可能になりました。
そこから偶然の糸が、大阪大学へと繋がっていきます。
大阪大学の佐藤功教授は、奥さんが野村町の隣町出身だったことから、復興ボランティアに関わることになり、緒方酒造のことを知ります。
大阪大学の有志を募って、緒方酒造を助けたい。
そんな思いから、各分野のキーパーソンに声がかかりました。
その一人が、松永さんだったというわけです。

災害のダメージは大きく、緒方酒造は結局廃業を選択せざるを得ませんでした。
それでも、大阪大学を始めとする有志のみなさんにより、酒蔵は地域活動の拠点として再利用されることに。
そうした復興活動の一環として、銘酒・緒方洪庵の復活が試みられることになりました。
「災害前の酒に近づけるのではなく、まったく新しいお酒を造ってください」
緒方酒造の社長からのリクエストにより、味のデザインから検討し始めたという松永さん。
緒方洪庵の人となりから、知性=キレのある辛口で、かつ飲みやすくて美味しいものを。
兵庫県朝来市の酒蔵に依頼し、資金はクラウドファンディングで募ったところ、予想を上回る反響がありました。
こうして出来あがった銘酒・緒方洪庵。
「やっぱり、感動しましたね。自分が酵母の選定から関わったものですから」
実際に飲んだかたからも「美味しい」と上々の反応。
朝日新聞の「天声人語」にも取り上げられて広く知られるようになり、作った分は全て完売という、願ってもない結果となりました。
なお、売り上げの一部は、野村町の復興のために使われるということです。
3年目となる酒の仕込みが現在行われていて、出来上がるのは4月頃。
大阪大学生協や、ネット販売などで購入できるそうです。
例えばお土産として、銘酒復活のストーリーを紹介しながら共に杯を傾ける。
あるいは一人で、手酌でゆっくりと味わう。
いろいろな楽しみ方ができて、飲むことで野村町の支援にもつながる、それが銘酒「緒方洪庵」なのです。
今回の松永さんのお話から、愛媛県の野村町について、詳しく知ることができました。
お酒好きが多いという土地柄、ちょっと覚悟も要りそうだけど、ぜひ一度訪れて、みなさんと仲良くなってみたいものです。

