阪大でいちばんおもしろい教授・千葉泉さんと歌おう♪「ハンダイラジオ 21世紀懐徳堂の社学共創」

2024/06/30

handai_240630aa大阪大学が発信するホットなトピックの数々を、公開録音でお送りする新番組「ハンダイラジオ」。
通算6回目、今年度初回となる番組収録は、6月17日(月曜日)に、大阪大学吹田キャンパス(人間科学学部/研究科東館106教室)で行いました。

<出演>
千葉泉(ちば・いずみ)さん(大阪大学大学院人間科学研究科 名誉教授)
筑本知子(ちくもと・のりこ)さん(大阪大学レーザー科学研究所 教授・マトリクス共創推進センター長)
猿倉信彦(さるくら・のぶひこ)さん(大阪大学レーザー科学研究所 教授・レーザー核融合科学研究部門長)
嶋谷泰典(しまたに・やすのり)さん(大阪大学特任教授 21世紀懐徳堂副学主 万博推進室副室長)

<聞き手>
野間耕平(タッキー816みのおエフエム ディレクター)

今回のゲスト・千葉泉さんは、2024年3月で大阪大学の教員を定年退職。現在は「名誉教授」となっています。
学生による人気投票で「阪大でいっちゃんおもろい教授」に選ばれたこともある千葉さん。何といってもユニークなのが「授業中にギターで学生たちと一緒に歌う」という授業スタイルです。

「まずは一曲、みんなで歌いましょう。曲は『Ole, hola(オレ・オラ)!』
千葉さんのギターが軽快なリズムを刻み、アップテンポなスペイン語の自作曲が会場に響き渡ります。
参加したお客さんたちも、手に手に鳴り物を持って、一緒に歌って。
のっけから盛り上がり全開、さすがは「歌う教官」の面目躍如といったところ。
そんな名物教官の千葉さんですが、そこにたどり着くまでには、紆余曲折の連続がありました。handai_240630b●千葉泉さんの「強い自分らしさ」
「もともと僕自身は、まったく学者向きの人間じゃないんです」
学者一家に生まれ育った影響で「自分も学者にならねば」と思い込み、東京外大のスペイン語専攻へ入り、大学院まで進みますが、修士論文に身が入らず、博士課程には進むことができませんでした。
その一方で、子どもの頃から音楽が得意で、プロのミュージシャンをめざした時期もあるという千葉さんは、その後入り直した別の大学院で、音楽を研究に生かせないか?と思うようになりました。
やがて南米のチリに留学の機会があり、そこで宗教民謡の調査に携わることになります。
そのときに実践したのが「弾き語り調査法」。
「普通にインタビューしてたんですが、あるとき『僕もギター弾けるんです』と弾いて見せたところ、相手にめっちゃウケて」
やがて現地の曲を覚え、地域の行事などにも演奏者として参加するようになっていった千葉さん。もともと「研究のための手段」だったギターが、いつの間にか目的化し、いわゆる「ミイラ取りがミイラになった」という状態に。ですがこれが功を奏し、調査対象のチリ人たちはこの「なぜかギターが上手くてやたらノリのいい変な日本人の若者」に心を開いていきます。
こうして、並の研究者や調査方法ではたどり着けないほど、深い調査を成しとげた千葉さんだったのでした。

この成果を引っ提げて、大阪外国語大学(当時)のスペイン語の教官として採用された千葉さんは、大学教員としてのキャリアをスタートさせます。
ですが・・・。
「どうしたことか、以前の『学者病』が再発しましてね。真面目に、学者らしく教えねばならぬと」
真面目なだけのつまらない授業。そんな日々が続いたある日。
「一年の授業の締めくくりに、最後の日だけギターを持って行って、恐る恐る学生に披露したんです」
結果は、思いがけないものでした。
明らかに学生の反応が良くなり、「一年で今日の授業だけ面白かった」という感想も。
手ごたえを掴んだ千葉さんは、それ以来ギター演奏を授業に取り入れ、こうして「阪大でいっちゃんおもろい」という授業スタイルが確立していったのでした。handai_240630c●千葉泉さんの「弱い自分らしさ」
大阪大学と大阪外国語大学の統合後、人間科学研究科に移籍した千葉さん。
順風満帆に見えた教員生活ですが、大きな落とし穴が待ち構えていました。
「もともと、視力に問題を抱えていて、小さな字がとても読みづらかったんです」
あるときそれが原因で、学生の個人データをうっかりメール転送するというミスを犯します。
それが個人情報の漏えいと見なされ、思いがけない重大事案となってしまいます。
結果、いろいろな関係者に迷惑をかけることになり、それを気に病んだ挙句、千葉さんはうつ病を発症します。
自分は価値のない人間。生きていても仕方がない・・・
そんな思いから抜け出せず、どん底の日々が続きました。
あまりに苦しくて、あるとき研究室に来ていた学生たちに、そのときの正直な気持ちを涙ながらに吐露しました。僕はこんなに弱さを抱えた、ダメな人間なんだ、と。
そこでまた、思ってもみない方へ事態は転がり始めます。
てっきり、学生に愛想をつかされ、軽蔑されると思いきや。
「そんなに苦しまれていたなんて」「よくぞ語ってくれました」「私もこんな弱さを持っているんです」
弱さの告白が、こんなにも温かく受け入れられて、それをきっかけにそれぞれが弱さを語り合う。
そこにはいつしか、深いレベルで互いを認め合う、心の交流が生まれていました。
この体験が気付きとなり、千葉さんはこれを授業に応用していきます。
それが「語り合いの授業」。
そこでは参加した学生が、一人ずつ自分のことを語っていきます。
友人にも話したことのない、誰にも見せないようにしてきた自分のこと。
勇気を振り絞って語る姿に、他の学生たちも触発されて、次々と心を開いて語り始めます。
そこに集まった学生の間には、明らかに深い共感が生じ、魂の連帯が生まれます。
一般企業のNEC「未来創造会議」では、この手法に注目し、実際に社員同士が「語り合う」ことで、人間関係が良くなり、業務面での成果が上がっているといいます。
また、千葉さんの退官後も、学生の有志により「語り合い」の場が継承されています。
深い苦悩を味わった千葉さんだからこそ、たどり着くことのできた「語り合い」の場。
現在、人知れず悩みを抱えている人たちにとっても、それは何かのヒントになるかもしれません。
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こうした千葉さんのこれまでの人生を綴った著書が
『”研究者失格”のわたしが阪大でいっちゃんおもろい教授になるまで-弱さと向き合い、自分らしく学問する』(明石書店)
千葉泉さんのことが非常によくわかる一冊となっており、なんと明石書店のサイトでは、千葉さんの演奏音源17曲を聴くこともできます。

強い自分らしさと、弱い自分らしさ。
どちらか一方ではなく、強さも弱さも、どちらも自分なのだ。
どちらも、あっていいのだ。
それは当たり前のことでありながら、それを認めるまでには、これだけの時間が必要だった・・・。
これまでの生涯をかけて、そのことを証明して見せた千葉泉さん。
その生きざま、歌いざまに、多くの人が共感し、何らかの勇気を分けてもらえる。
そんな気がします。

handai_240630d猿倉さん / 筑本さん
●クラウドファンディング
「架け橋を創る、未来を拓く―東南アジアと共に育むグローバルリーダー」
ご紹介いただくのは、レーザー科学研究所教授の筑本さん・猿倉さん。
レーザー科学研究所は、巨大レーザー装置での核融合実験を始め、さまざまなレーザーの応用法も研究されています。
今や、日常生活のあちこちで活躍しているレーザー。
その技術を応用すれば、例えば東南アジアで発掘された陶器を計測することで、新たな事実が判明したりもします。
そのときに必要になってくるのが「文理融合」。
今の大学では、文系と理系をすっぱり分けているため、育つ人材は文理どちらか一方に視点が偏りがちです。
そこにもう一方の視点が加われば、思ってもみなかった手法を試せたり、予想外の成果が上がることも。
そこで文系・理系を問わずに学生の希望者を募り、座学やグループワーク、そしてフィリピン・ベトナムでのフィールドワークを通して、学生の育成を図ることになりました。
「実際に海外へ行って、現地の学生や教員とも交流しながら、国際的にも活躍できる人材を育てます」
そのために必要な財源について、今回クラウドファンディングで募ることになりました。
学生の育成には時間がかかりますが、この投資は未来につながるもの。
必ずや、ここから文理の両輪を身に着けた逸材が育っていくことでしょう。
2年間の育成を経た学生さんにも、今後お話を聞いてみたいものです。handai_240630fhandai_240630eまた、21世紀懐徳堂の嶋谷さんからは、大阪大学「公開講座」のご案内も。
詳しくは9月の「ハンダイラジオ」で改めてご紹介いただきますが、今年の公開講座は大阪・関西万博に関わる先生も登場するとのことで、万博本番の前に公開講座を受けておけば、万博を100倍楽しめるかも?handai_240630ghandai_240630h収録の最後には、再び千葉さんの歌と演奏『それでも桜は咲く』を、会場のみなさんと一緒に。
東日本大震災を契機に作られたこの曲は、被災者の苦しみに千葉さん自身が味わってきた苦しみも重なって「歌いながら途中で泣くかもしれない」。それでも、千葉さんの中でも特に重要な曲ということで、思いを乗せた歌声に、みんなで声を合わせて。
こうして、大勢で一緒に歌う機会って、意外に無いものです。
きっと千葉さんの授業を受けた学生たちも、こんな風に感じていたのでしょうね。handai_240630i大学を退職後は時間に余裕もできて、各地での演奏活動も予定している千葉さん。
タッキー816の『マンスリー国際交流コンサート』にも、今年10月に登場予定です。
そのときはまた、会場に駆けつけてぜひ一緒に歌いたいものです。handai_240630j