ステキなゲストをお迎えして、楽しいトークと素敵な音楽をお届けします。
お茶でも飲みながらステキな午後をお楽しみください。
今回のゲストはおなじみ、上方文化評論家の福井栄一(ふくい・えいいち)さんをお迎えしました。
精力的に著書を出版されている福井さん。
今回ご紹介いただくのはなんと、45作目!
「小さい頃から、わりと書くのは早い方で、苦にならないんですよ」
書くことよりも、出版先を見つける方がずっと大変で、自宅にはまだ日の目を見ない原稿が山積みに・・・。
それはきっと掘り出し物の宝の山なので、出版社のみなさん、ぜひご検討のほどを・・・!
さて、福井さんの最新刊となるのは、この作品。
(きゅうおうどうわ)
1835年に出版された、柴田鳩翁(しばた・きゅうおう)の講演録。それを、福井栄一さんが現代語訳でよみがえらせたものになります。
柴田鳩翁は京都の人で、若い頃は人気の講釈師として一世を風靡していました。
中年になってから出会った「心学」に感銘を受け、「人はいかに生きるべきか」を学んで、それを人に説くようになります。
それが大当たりし、以前にも増して引っ張りだこ。「一度に聴衆500人が集まった」という記録もあるそうです。
そうして説いて回った内容を、鳩翁の息子が書き留め、『鳩翁道話』として出版。江戸時代のベストセラーとなり、現代まで読み継がれることとなりました。
福井さんは高校生の頃に『鳩翁道話』と出会い、その面白さに夢中になります。友だちにも勧めたい、だけど古文だから読むのが大変。現代語訳があればいいのになあ・・・。
それを何十年ぶりかに思い出して、福井さんが自ら手がけることに。
なんとこれが、本邦初の現代語訳となりました。
さて、福井さんが魅了された、史上の名著『鳩翁道話』は、どんな内容なのでしょう。
・京の蛙と大坂の蛙
京都と大坂に住む蛙が、あるとき思い立って京見物、なにわ見物に出かけます。
二匹がばったり出会ったのは、京と大坂のちょうど境目、天王山の頂。
「ここから見渡せば、行く先のようすが見えるであろう」
二匹はお互いによりかかりながら二足で立って伸びあがり、下界を眺めますが・・・。
なんじゃ、大坂というのは、京とまるで変わるところがないのう。
京の眺めも、大坂と一緒じゃ。
これなら、わざわざ見に行くまでもないと、二匹はそれぞれ回れ右して、元のまちへ帰って行くのでした・・・。
蛙の目は背中側についているので、立ち上がると見えるのは背後の景色。それに気が付かなかった蛙は愚かですが、そこから転じて
「人が培ってきた物の見方を変え、新しいことを取り入れるのは、大層難しいものである」
こんな教訓が導かれるといいます。
鳩翁の魅力は、こうした「心のあり方」を大上段から説くのではなく、面白おかしいエピソードで引きこみながら自然に腑に落ちるようにする、そんな伝え方にあるようです。
昔も今も、人が抱える悩みに、それほど違いはないのかもしれません。江戸期の人たちの魂を揺さぶった『鳩翁道話』の説くところは、現代においても古びることなく、読む人の心を掴むのではないでしょうか。
巧みな話芸と内容の深さで、当時の聴衆から絶大な支持を受けた柴田鳩翁。
どこか、福井栄一さんとイメージがかぶりますね。
「いやいやそんな、僕は訳しただけですから・・・それでも、僕も語りが好きなので、鳩翁には親近感がありますね」
時代を超えた二人の出会いは、必然だったのかもしれません。
2月には『大和怪異記』の、福井さんによる現代語訳版も出版されます。
怒涛の勢いは2025年も止まらない、もうそろそろ全著作が積み上げ切れなくなるのでは。
でもそんな「全著作タワー」が伸びていくのを、これからも楽しみにしています!
『現代新訳 鳩翁道話』
口述:柴田鳩翁
訳:福井栄一
定価:1870円(本体1700円+税)
体裁:46判ソフトカバー・160頁
出版:青娥書房
■1月29日(水曜日)午後3時放送(再放送は同日午後9時、1月5(日曜日)午後5時)