まちのラジオ第2週 超天才!?パスカルの名著「パンセ」、その実態は…大阪大学文学研究科・山上浩嗣教授

2016/09/08

yamajou-1箕面の主な活動グループが週替わりでお送りする「まちのラジオ」。毎月第二木曜は、大阪大学社学連携事業。大学と社会のつながりをテーマに放送しています。
今回の放送では、大阪大学文学研究科教授の山上浩嗣(やまじょう・ひろつぐ)さんをお迎えして、専門のフランス文学についてお話しいただきました。

一口に「フランス文学」と言っても、いろいろな作品がありますが、その特徴は?
「一言で言うと、『正義を語らない』ということですね」
悪、愚かさ、滑稽な姿から、ありのままの人間を語る。
例えば、カミユ「異邦人」では、主人公の青年が「太陽がまぶしいから」という理由で人を殺してしまいます。なんとも不可解ですが、不思議と主人公に反感を覚えません。
 山上さんが研究しているテーマの一つに、パスカルの「パンセ」があります。あのあまりにも有名な言葉、

「人間は考える葦である」

が記されている名著です。
実はこの「パンセ」、パスカルが取り組んでいたキリスト教に関する著作の「メモ」なのだそうです。1000ほどの断片からなるそれは、人を信仰に誘うことを目的に書かれたものです。
もし、この著作が完成していたら…バラバラの断片の順序を考えてつなげていくことで、幻の著作に迫れるかもしれない。正解のないパズルのような作業ですが、それは興味深い探究となることでしょう。
パスカルは39歳の若さで亡くなりますが、その間に残した業績は大変なものがあります。圧力の定理「パスカルの法則」が有名で、気圧の単位「ヘクトパスカル」にその名前が見られます。数学の分野でも数々の業績を打ち立てており、「その10分の1の業績だったとしても十分に天才」とは山上さんの評。
「パスカルが10歳くらいの頃のこと。当時、父親はわざと彼に数学を教えませんでした。のめり込むのがわかっていたから…ある日家に帰ると、彼が部屋の床に何やらごそごそ図形を描いたりしている。幼いパスカルは、なんとそのとき独力で『ユークリッドの定理』を証明していたのです」
それを見た父親は涙を流し、以後彼に数学を教えた…とこれはあくまで伝説ですが、パスカルの超天才ぶりを表すエピソードを紹介していただきました。

山上さんのパスカル研究をまとめた著書が、11月に出版されます。
「パスカル パンセを楽しむ」(講談社学術文庫)
超天才パスカルについて興味をお持ちのかたは、ぜひご覧ください。

■フランス文学「この三冊」
山上さん、フランス文学といっても千差万別、多岐に渡りますが、その中で「コレは読んどけ!」というのはありますか?

(1)パトリック・モディアノ「暗いブティック通り」
記憶喪失の主人公が、自分は何者かを訪ねて、わずかな手がかりをもとに、細い糸をたどるように真相に迫っていく…かつての自分が写った写真、隣の女性は自分にとってどういう存在だったのか?やがて明らかになる、ある悲劇とは…
作者は2014年のノーベル文学賞を受賞。

(2)ミシェル・トゥルニエ「フライデー、あるいは太平洋の冥界」
デフォーの「ロビンソン・クルーソー」を題材に、まったく違う無人島生活を描いた作品。太平洋の孤島に漂着し、独力で農耕・牧畜で島を開拓しながら生きるロビンソン。ある日、彼の元に南米人の少年フライデーが迷い込む。彼に厳しく生活習慣を仕込もうとするロビンソンだが、ある事故により島の文明生活は崩壊。フライデーの影響により、徐々に変貌していくロビンソン。そして、彼が下した驚くべき決断とは…。

(3)アゴタ・クリストフ「悪童日記」
第二次大戦~冷戦下の、東欧の「ある国」。身寄りのない双子の男子は、力を合わせて生き延びていく。靴下に硬貨を詰めて武器にし、ナチスの将校に取り入り…。作者はハンガリー出身で、フランス語は後から学んでおり、どこか拙い文章が、却って少年のリアルな言葉として効果を上げている。

最後に、山上さんから、学生のみなさんへのお言葉。
●英語だけでなく、もう一つ外国語を学ぶ機会を持ってほしい。
●生涯、繰り返し読める愛読書を、学生時代に見つけてほしい。

まずは上記の三冊から、読まれてはいかがでしょうか。yamajou-2